あらすじ
ゲイバーの常連・コウちゃんは、見た目も会話もそれなりに整えて、ちゃんと頑張って生きている。
若い頃のように、ただそこにいるだけでは済まない年齢だ。だからこそ、気を配る。空気を読む。会話をつなぐ。けれど、なぜかいつも“残る人”にはなれない。
そんなコウちゃんの視界に、いつも引っかかる男がいる。
トオルさん。派手でもなく、若作りもしていない、等身大の中年ゲイ。なのに彼の隣に座る相手は、いつのまにか肩の力を抜き、楽しそうに話している。
ある夜、少し気になっていたシンちゃんと自分ではうまく空気をほどけさせられなかったコウちゃんは、後日、シンちゃんがトオルさんの隣で自然にやわらいでいるのを見てしまう。
なんで、自分じゃないんだろう。
なんで、あの人なんだろう。
やっかみながら見つめていた先で、コウちゃんは少しずつ気づいていく。
人に好かれる理由は、若さや派手さや会話のうまさだけじゃない。
隣にいる相手を、ちゃんと息がしやすくできる人がいるのだと。
ゲイバーの片隅で、ひとりの中年男が“何に負けていたのか”を知る、静かな短編。