あらすじ

ある夏、言葉が消え始めた。  最初は子どもたちだった。音読の途中で声が止まり、朝の挨拶が宙に浮き、名前を呼ばれても口が開かなくなった。医師も、行政も、原因を知らなかった。ただ一つわかっていたのは、それが静かに、しかし確実に、広がっているということだけだった。  小学校教師の瀬川朔子は、教室の中でその始まりを目撃した一人だ。  彼女は声を持っている。まだ、かろうじて。  だからこそ書く。声を失った子どもたちのことを。言葉が霧になって消えていくあの朝のことを。極限の中でなお、誰かの隣に座ることを選んだ、名もない人たちのことを。  これは終末の物語ではない。  終わりが忍び足でやってきた、あの静かな季節の記録だ。人間が「話す」ことを失ったとき、何を失い、何を失わないのか。絶望の底で手を伸ばすとき、その手はどこへ向かうのか。  朔子の記録は、問い続ける。  ―― 声がなくなっても、あなたはまだ、ここにいますか。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
カクヨム
カクヨム2026/04/03
  • 現在の作品口の中の灰