あらすじ
――おっ。
夜、仕事を終えて帰り道を歩いていると、ふいに楽しげな音楽が耳に飛び込んできた。笛の澄んだ高い音色に、肌を痺れさせ、腹の底までじんと響く太鼓のリズム。どこか懐かしく、湿り気を帯びた夏の夜気に溶け込むような温かみのある旋律だ。風に乗って断続的にこちらまで届いてくる。
たしか、この近くにそこそこ大きな広場があったはずだ。そこで盆踊りでもやっているのだろうか。
懐かしいな……。おれが子供の頃も、夏になると地域の祭りで盆踊りが開かれていた。小学校の校庭を借りてやぐらを組み、提灯が空に浮かぶようにずらりと吊り下げられていて――。
ただ、おれは踊り方がわからず、輪の外から眺めているだけだった。見よう見まねで入ればよかったのに、妙な照れが勝って一歩が踏み出せなかったのだ。