あらすじ

戦争が終わった直後の奈良県五條。 戦地から帰還した十八歳の青年・恒一は、多くの仲間を失い、自らも命を奪ってきた記憶を抱えたまま故郷へ戻る。家業を継ぐ跡取りとして畑に立つ日々が始まるが、彼の心は現実に追いつかず、どこか村の中に溶け込めない“外側の感覚”を抱えていた。 男手を失った村では、人々は忙しく、互いに支え合いながらもどこか余裕を失っている。幼馴染や家族との再会にも安らぎを見出しきれない恒一は、過去の記憶と現在の生活の狭間で、静かに揺れ続けていた。 そんな中、川辺でひとりの異国の女性と出会う。 フランスから来た小説家・エレーヌ。背が高く、この土地には似つかわしくない佇まいを持つ彼女もまた、戦争で家族を失い、その喪失から逃れるように日本へやってきていた。 言葉は通じない。育った環境も違う。 それでも、草や空といったささやかなものを通して、二人の間には少しずつ“通じる感覚”が芽生えていく。 それは激しい恋ではなく、傷を抱えた者同士が、ゆっくりと距離を測りながら触れていくような、静かな関係だった。 止まったままの時間を生きていた恒一にとって、エレーヌとの出会いは“過去ではない何か”に初めて目を向けるきっかけとなる。 一方でエレーヌもまた、この異国の地で、自分の喪失と向き合いながら新たな物語を探していた。 戦争の傷跡が色濃く残る時代の中で、二人は言葉を越えて心を通わせていく。 これは、失ったものを抱えたままでも、人が再び誰かと向き合い、生きていくことができるのかを描く――静かで純粋な愛の物語。

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小説を読もう2026/04/02
  • 現在の作品五條、夏の終わり