あらすじ
10年前、10歳だった少年は新宿迷宮の深層に落ちた。帰還不能。死亡認定。——だが彼は、感情と引き換えに歩いて帰ってきた。
灰堂凪、20歳。登録ランクF級。だが深層で10年生き延びた身体は人間の範疇を超えている。A級魔獣を「邪魔だった」と一撃で消し飛ばし、50層を「散歩コース」と呼ぶ。本人はいたって普通のつもりだ。配信ドローンに偶然映り込んだ映像が拡散し、掲示板では都市伝説「灰色の幽霊《グレイゴースト》」として考察スレが乱立する。
散歩の途中で瀕死の少女を「通りかかっただけ」と助け、路上生活の元探索者に「余ってた」と弁当を渡し、S級探索者に「散歩のついでに来ればいい」と声をかける。回復役のほのか、不正を暴こうとするミナ、孤高のシオン——三人の少女が凪の六畳一間に集まる。全員が凪に人生を救われ、全員の想いが重い。だが凪は気づかない。感情を知らないから。
四人の食卓で凪が初めて「おいしい」を知った頃——ギルド幹部・鏡月冴が動く。ほのかが消え、ミナが拘留され、シオンが査察を受ける。凪の居場所が、一つずつ潰されていく。
空っぽになった部屋で、凪は知る。「足りない」の正体を。花の形のにんじん。壁に残るシオンの影。ミナが座っていた場所の沈み。——「取り戻す」。感情の語彙が足りない男は、たった一言で立ち上がる。単身ギルド本部に乗り込む凪のもとへ、三人の少女もまた走り出す。「凪のために」ではなく——自分の意志で。
——感情を知らない最強が「守りたい」を覚えるまでの、現代ダンジョン×勘違い無双。