あらすじ
「あのー」
「はい?」
「素人ですが、すみません。道をおたずねしたいんですが……」
ある日の昼下がり。昼休みのピークが過ぎ、人波がやや引いた通りを歩いていたところ、背後から遠慮がちに声をかけられ、おれは足を止めて振り返った。
そこに立っていたのは、くたびれた上着を着たごく普通の中年男。肩はわずかに沈み、背中は丸まり気味。うっすらと青みがかった口元を軽く歪め、申し訳なさそうに小さく会釈してきた。
おれはポケットからスマートフォンを取り出し、地図アプリを開いて現在地を確認すると、男の言った目的地を検索した。
「――で、二つ目の角を右に行って、少し歩くと左手に見えるはずです。看板が大きいので、すぐわかると思います」