あらすじ
毎朝、川沿いを十五分だけ散歩する和枝。健康のためと言いながら、本当は、会話の少ない夫との朝の空気から少し離れるための習慣だった。
ある雨上がりの朝、いつもの遊歩道の途中に「返却窓口」と書かれた小さな窓口が現れる。そこで渡されたのは、昔出せなかった退職届。翌日は亡き母への手紙、その次は投稿しなかった小説原稿――返されるのは、和枝が人生で“提出しなかったもの”ばかりだった。
散歩のたび、自分が選ばなかった道と向き合わされる和枝。やがて最後に返された一通が、止まっていた夫婦の時間の見え方まで変えていく。
静かな散歩道に現れた不思議な窓口が、出さなかった過去と、これから先の小さな一歩を照らす物語。