あらすじ
海沿いの坂道に佇む、私立電音学園。
そこにいるのは、伝説の怪物――BIG MUFFとして現世に肉体を得た5人の少女たち。
彼女たちは、聴く者の景色を音で塗りつぶす「圧倒的な轟音」と、一度叫べば消えることのない「永遠の歌声(サステイン)」という、機材としての宿命をその身に宿していた。
しかし、その強すぎる出力は、彼女たちの繊細な電子回路を少しずつ焼き切っていく。
ラムズヘッド('73ver.)
「……私、また泣いちゃった。同じ名前の子はあんなに綺麗に笑うのに」
マフ史上、最も美しい「泣き」の声を持つ銀髪の少女。だが、当時のパーツ供給の不安定さゆえに、個体ごとに回路も性格も全く異なるという宿命を負っている。周りの「ラムズヘッド」のようにうまく鳴らせない自分を、彼女は欠陥品だと信じ込み、基板を震わせて泣いていた。
トライアングル('69ver.)
「無作法に触らないで。私の純度は、貴方に耐えられるほど低くないわ」
すべてのマフの始祖。最初期個体としての誇りを持ち、混じりけのない「至高の美音」を湛えた天才お嬢様。高貴すぎるそのダイナミクスは、誰も寄せ付けない絶望的なまでの壁でもあった。
オペアンプ('78ver.)
「伝統? 系統? うるせえよ! あたしはあたしの心臓(IC)で鳴ってんだ!」
心臓部がトランジスタではなくIC(集積回路)で構成された、マフ家系の中の異端個体。他の姉妹のような滑らかさを持たない代わりに、すべてをなぎ倒す暴力的な爆音で、孤独な心を防衛している。
グリーンロシアン('90s Sovtek)
「……おいで。君の全部、私の重低音で包んであげるから」
極寒の地(ロシア)で製造された、軍服を纏うタフな義姉貴。戦車のように頑丈な筐体と、大地を揺らす圧倒的な低音を持つ。その力強さは、過酷な環境を生き抜いてきた「機材」としての矜持だった。
ニューヨーク(Current model)
「私、普通の女の子だけど……それでも、先輩たちの音に追いつけますか?」
現代のニューヨークで誕生した、もっとも新しい個体。伝説のヴィンテージと比較され「自分には物語がない」と悩むが、誰よりも素直で、誰よりも安定した王道の音を奏でる努力家。
「君のノイズは、君が生きている証だ。……俺が、その音を肯定してやる」
時代遅れのギターを抱えた少年が、彼女たちの剥き出しのジャックにプラグを挿し込むとき、止まっていた時間は再び動き出す。
不器用な指先が紡ぐのは、焼き切れるほど熱く、溶けるほどに純粋な、再生への旋律。
これは、自分を好きになれなかった「BIG MUFF」たちと一人の少年が、
世界でたった一つの「自分たちの音」を見つけ出すまでの、残酷で美しい100日間の物語。
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