あらすじ
姉の身代わりで嫁ぎ、白い結婚のまま離縁された公爵夫人イルゼ。夫となるはずだった人は顔を知らぬまま、姉ではないという理由で私を手放した。王都の借家で、私は司書補として静かに年を重ねるつもりだった。
雨の日、図書館の扉を開けて現れたのは、かつて義弟だったコンラート・フォン・ノルトハイム様。堅物で知られる王立騎士団法務官。私を旧姓で呼び、屋敷時代と同じ順に書物を借りていく。
燃えたはずの私の手紙。壁際でそっと差し出される、家紋の刺繍の隠れたハンカチ。仕立てられたまま眠っていた銀の指輪。
「兄は間違えた。私は、間違えない」
気づかれていなかったはずの私の日々を、長く覚えていた人が、静かに立っていた。
――これは、身代わりの妻だった女が、本物の妻として迎えられ直すまでの話。