あらすじ
隣の席のアシカ獣人・タマキはいつもじとっとした湿度高めのジト目で、俺の隣にぴたりと張り付いてくる。
腕を絡めてくる。手を繋ごうとしてくる。ペットボトルの口をつけた場所を回して飲む。
アシカは仲間とくっついて寝る生き物なんだって言うけれど、そういうことにしておかないと、心臓が持たない。
——仲のいい、男友達の距離感。
タマキはそう言うし、俺もそう信じることにしていた。
なぜって、仲良くなる前、俺はタマキが男子に告白されている現場を偶然、目撃してしまったからだ。
「束縛しあう彼氏彼女みたいな関係は好きじゃない」「気安く友達として仲良くできるような人が好き」——冷たい拒絶で男子を玉砕させた、あの日のタマキの姿を知っている。
だから、俺は徹底した。
気安い友達として振る舞う。距離は詰めない。
クラスの連中に「付き合ってんの?」とからかわれたら、きっぱり否定する。
「俺たちはそういうのじゃないから」
——そう言うたびに、タマキは同意してくれた。ハイライトの消えた、濁った目で。
そんなある日、俺のもとに、他のクラスの女子からラブレターが届いた。
人生初のラブレターに浮かれた俺は、それをタマキに見せつけた。
「俺って、意外とモテるんだな〜」
タマキは、少しだけ真顔になって、こう言ってくれた。
「最初の一人は、ちゃんと選んだほうがいいよ」
「一生、思い出す相手になるんだから」
——やはり、持つべきものは親身な友達だ。
調子に乗った俺は、さらにタマキに踏み込んだ。
「タマキって詳しいな、もしかして彼氏いた?」
「俺、恋愛経験ゼロだから、彼女の予行演習してくんない?」
連続で、地雷を踏み抜いた。
タマキは俯いて、こう呟いた。
「……今日、うち来なよ。彼女ができたらどうすべきか、レクチャーしてあげるから」
その日の放課後。
二人きりのタマキの部屋で、タマキは俺の肩に手を置いて、囁いた。
「わたしじゃ、ダメなの?」
困惑した俺は、気を遣ったつもりで、言ってしまった。
「だって、タマキ、言ってたじゃん。束縛嫌いだって。気安い友達が好きだって——」
——タマキの中で、何かが、ぷちん、と、切れた。
「それさ、わたしが興味ない男を振る時の、断り文句なんだけど」
「きみに向かって言った言葉じゃないよ」
「ずっとサイン出してたじゃん。それを、直接聞きもしないで——」
湿度が限界突破したパーフェクト激重ヤンデレが、逃げ場のない部屋で、俺に覆いかぶさる。
「わたしの心、ぐちゃぐちゃにした罰、受けてもらうから💞」