あらすじ
『「いらない」と言われたので、世界から私の記憶を消しました。
二十年間、記録し続けましたが——本日をもって帳面を閉じます』
いらないと言われた日
その日、彼は言いました。「いらない」
大きな声ではありません。でも、その一言で、二十年が終わりました。
私は部屋に戻りました。そして、帳面を出しました。
一冊、また一冊。全部で二十冊です。
そこには、彼との日々が書いてあります。
約束した日。破られた日。「今回だけ」と言われた日。
私は、それを全部、忘れないように書いてきました。
夜になりました。庭に出て、火をつけました。
一冊、燃やします。ぱち、と音がします。
その音と一緒に、誰かの中から、私が消えました。
もう一冊、燃やします。また一人、忘れます。
燃やすたびに、体が軽くなります。
肩が軽くなります。息が楽になります。
悲しくは、ありませんでした。ただ、自由でした。
最後の帳面を開きます。今日の日付を書きます。
「いらない」と言われた日。
そして、こう書きました。「記録、終わり」
それも、燃やしました。
朝になると、私はどこにもいません。
名前も、顔も、全部消えました。
でも、足音はあります。息もしています。
私は、ここにいます。
彼は、きっと忘れます。
でも、何かを失ったことだけは、わかるでしょう。
理由は、わからないまま。
私は、新しい帳面を持ちます。白いページです。
そこに書きます。
パンがおいしかったこと。
空が青かったこと。
風がやさしかったこと。
そして、自分の名前を。
これは、私のための記録です。