あらすじ
地図アプリで「ティラスポリ」と検索する。画面にピンは立つのに、周囲の情報が薄い。確かに存在はしている、しかし情報がない——東京のNGO職員・橘椎葉の、三ヶ月の派遣が始まる。
沿ドニエストル。モルドバの中にある、どの国にも承認されない「国じゃない国」。
十一年前、津波で故郷・気仙沼と家族を失った椎葉は、壊れた場所を記録することで自分の壊れた場所から目を逸らしてきた。
そこで出会ったのは、無愛想な考古学者セルゲイ。
町を離れられない若いラジオアナウンサー・ナスチャ。
そして市場の古書店の老人ヴィクトル。
言葉が三つも四つも混じり合う街で、椎葉の「白か黒か」は少しずつ崩れていく。
ドニエストル川のほとりで、セルゲイが初めて彼女を名前で呼んだ夜——
承認されない国の、名前をつけられない愛。
地図に載らない場所で、椎葉はようやく、自分の中の地図を書き換え始める。
これは喪失と再生が入り混じる、静かな三ヶ月。