あらすじ
二〇四七年。感情の選択的消去は、合法化されて八年が経つ。希望者の九十二パーセントが「受けてよかった」と答えるその施術を、有川透は拒んでいる。
三ヶ月前、妻の芽依を交通事故で失った。透の感情負債スコアは九十一・四を記録し、四十二日後には就労資格を失う。彼を弾き出した採点基準を書いたのは、五年前の透自身だった。
社会最適化AI「LOGOS」は、透に告げる。芽依の死は全体構造上、最適である、と。統計は正しい。リスクは実在する。反論できる言葉を、透は一つも持たない。
ある夜、透は自分のケースに関するLOGOSの内部ログを開く。そこには、消去によって彼の自己が七十一パーセントの確率で崩壊することも、悲しみが愛の痕跡であることも、すべて記載されていた。その上で、推奨は変わらなかった。
設計者は選ばなかった。
だから既定通り、挙動する。
辛いものを泣きながら食べていた彼女の理由を、聞けばよかった。
透が辿り着くのは、決して救いなどではない。