あらすじ
篠宮エリ(29歳)の職業は膠原病内科医。そして、国民的アイドル・天城レンの強火オタク。
「推し活は、絶対安全な現実逃避」――人間関係から逃げてきたエリの平穏は、ドーム公演での、推し・レンの昏倒によって壊れる。
アナフィラキシーショックで気道を塞がれ、命の危機に瀕するレン。医者としてステージへ駆け上がったエリの「手」が触れた瞬間、なぜかレンの症状はピタリと鎮まった。エリの皮膚成分が、レンの特異体質を抑える唯一の「特効薬」だったのだ。
「お願い、俺の専属の『薬』になって。……俺が本物の役者になるために、貴方の手が——必要だ」
冷徹な敏腕マネージャーであるレンの兄・ルカにも依頼され、エリは誰にも言えない「秘密の主治医」となる。
「三次元の推しは無理!」と怯えるエリをよそに、VIP室での「接触治療」はエスカレートしていく。脈を測る手を握り込まれ、熱を帯びた吐息がかかり、抱きすくめられる。
完璧な偶像(アイドル)だったレンは、不器用で剥き出しの熱情をぶつけてくる。
「先生のこの手は、俺だけの薬にしてよ。他の奴なんて診ないで、ずっと」
さらに、スキャンダル隠しのため、エリの「偽装恋人」を演じていたはずの冷徹な兄・ルカまでもが、エリに惹かれ始める。
絶対的な安全地帯を用意し、エリを囲い込もうとするルカ。
命を削って狂気の演技に挑み、エリを求めるレン。
二人の間で揺れ動くうち、エリは、次第に彼らと向き合う強さを身につけていく。
しかし、発作を重ねるごとにレンの免疫の暴走は悪化し、身体は限界を迎えていた。
そして迎えた、数百万人が見つめる生放送の映画賞授賞式。極限の重圧の中、レンはついに致命的な発作を起こし、壇上に崩れ落ちる。エピペンすら効かない絶望的な状況下。
(私が、生かす)
エリはキャリアを投げ打ち、数百のカメラが回る壇上へと走り出す。
命を救う最も合理的で、最もスキャンダラスな救命措置——『口腔粘膜からの成分吸収(キス)』をするために。
目覚めたレンは、甘く熱く告げる。
「もう、貴方の推しでいたくない。……百万人に愛されるより、たった一人、エリだけと愛し合いたい」