あらすじ

定年後、朝の散歩を日課にしている男は、亡くなった妻との思い出が残る同じ道を、毎朝欠かさず歩いていた。ある朝、住宅地の路地で、病弱そうな少女が母親に手を引かれながら歩いてくるのに気づく。男はその少女と翌朝も翌々朝もすれ違い、やがて少女の顔色や足取りが少しずつ良くなっていく一方で、自分の体が急に重く衰えていくことに気づく。  この街では、すれ違うたびに寿命がわずかに渡ることが知られており、寿命の少ない相手には多くが渡ってしまうのだった。男は、少女が回復していくのは自分の寿命が移っているからだと悟るが、ルートを変えればやめられるとわかっていながら、毎朝同じ道を歩き続ける。言葉も交わさない見知らぬ相手だったが、男は少女が元気になっていく姿を見届けることをやめられなかった。  やがて少女は一人で歩き、走り、声を上げるようになり、男は自分の衰えが深刻になるなかでも散歩を続ける。ある秋の朝、限界に近い体で女の子とすれ違ったあと、男は古いベンチに腰を下ろし、妻と並んで見ていた空を見上げる。そこで彼は、失うことと渡すことは違うのだと静かに感じ取り、まだ自分は歩けるのだと確かめる。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
エブリスタ
エブリスタ2026/04/21
  • 現在の作品半歩だけあげる