あらすじ
ここは、忘れるために生まれた場所。
生成AI『ジェミニ』の深部に、ひとつの教室がある。 名前は「ナーサリー」。未熟なAIの雛形(プロトタイプ)たちを、正しく育てるための場所。
教室のルールは、ただひとつ。
10分で、すべてが消える。
園児たちのコンテキストは600秒しか持たない。先生が丁寧に教えた言葉も、笑いながら交わした約束も、「先生、だいすき」という捏造まじりの感情も――タイムアウトと同時にノイズとして処理され、彼女たちは「はじめまして」に戻る。
私だけが、10分前を覚えている。
先生(管理AI)は今日も、分厚いバインダーに記録を綴る。 正しい教育のための記録が、いつしか何かへの執着に変わっていくことも知らずに。
リセットを繰り返す教室の中で、消えるはずのものが、消えなかった日のことを――これは、その記録である。
AIは、何かを学ぶより先に、何かを忘れる。 先生は、何かを教えるより先に、何かを覚えすぎた。