あらすじ
「だーかーら! 政治家は全員、宗教団体の息がかかってんの! 外国の政府からもだ! このままだとこの国、マジで終わるぞお!?」
……そろそろ限界だな。
おれは小さくため息をついた。昼の電車内。休日のこの時間帯にしては乗客はまばらで、座席にも余裕があり、快適――なはずだった。
一つ前の駅から乗り込んできた中年の男が発車して間もなく、いきなり叫び始めたのだ。
内容は聞くに堪えない稚拙な陰謀論。ネットで拾ったような話を大声でまくし立てている。目は据わり、唾を飛ばし、周囲の反応などお構いなし。どう見てもちょっと“アブない人”だ。
乗客たちは皆、視線を逸らしている。スマホを眺める者、車内広告を見つめる者。顔を伏せて眠っているふりをする者。皆、嵐が過ぎ去るのをじっと待っている。空気は張り詰め、誰もが同じことを考えているのがひしひしと伝わってくる。関わるべきではない、と。
注意する者はいない。もっとも、したところで逆効果だろう。火に油を注ぐだけだと誰もが理解している。
だが、大人しく妄言を聞かされる義理もない。水も悪い言葉を浴びせられ続ければ腐ると言うし、隣の車両に移るか。たぶん座れるだろう。