あらすじ
三十二歳の王宮温室種子台帳官エルザ・ブルーメは、播種記録と花名札を守りながら、春花博覧会の準備まで支えてきた。だが三十五歳の婚約者カスパル・ヴァイトと、二十七歳の義妹リディアに王宮温室の席も婚約も奪われたうえ、王家紋章花の発芽不良まで押しつけられてしまう。追い出されるように向かった先は、北辺侯レオンハルト・ノルトフェルトが再建を進める凍土の温室。凍りついたガラス室、入れ替えられた花名札、消えた種子庫の記録、そして『本物の令嬢』を名乗る義妹の嘘。播種記録、納品帳、交配帳、温度日誌を洗い直すほど、王宮温室の不正はひとつの筋へつながっていく。無口な北辺侯が毎朝いちばんに蕾を見せに来る温室で、エルザは自分の仕事と居場所と人生を取り戻していく。大人の女性が記録で逆転し、最後には自分の名で花を咲かせる再出発譚。