あらすじ

三年前から外に出ていない「自分」は、在宅のデザイン業で生活を成り立たせながら、誰にもその事実を語らずに日々を過ごしていた。外に出ない理由は自分でも言葉にできず、気づけば時間だけが積み重なっている。そんな生活の中で利用し始めたのが、他人が歩く感覚を神経接続で共有する「散歩代行サービス」だった。風の温度や地面の感触、においまでもがリアルに伝わる体験は、部屋にいながら外にいる錯覚をもたらし、やがて日常の一部となる。  同じ代行者を指名し続けるうちに、彼が歩いた街の記憶は自分の中に蓄積され、自分が実際に体験したものとの区別が曖昧になっていく。川沿いの風、商店街のにおい、雨に濡れたアスファルトの感触——それらは確かに「自分の記憶」として存在するが、自分の足で得たものではない。その違和感に気づきながらも、明確に向き合うことはなかった。  ある日、転送中に代行者が転倒し、感覚が突然途切れる。通知によって軽傷であると知らされるが、その衝撃の残滓とともに、自分の中に生じた動揺が「他人の感覚」ではなく「自分自身の反応」であることに気づく。その瞬間、自分が長いあいだ何ひとつ自分の身体で引き受けてこなかった事実が、鋭い実感として浮かび上がる。  部屋の中の限られた感覚だけで構成された自分の生活の薄さを知り、言葉にできなかった「外」との距離が輪郭を持ち始める。そして衝動のように立ち上がり、三年前から放置されていた革靴に足を通し、玄関のドアに手をかける。転送では得られない感触を確かめながら、ついにドアを開けたとき、目の前の世界は記憶と重なりながらもわずかに異なっていた。  自分の身体で初めて受け取る外界の感触の中で、「自分がここにいる」という実感を確かめるように、一歩を踏み出す。

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エブリスタ
エブリスタ2026/04/20
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