あらすじ
毎日同じルートを散歩する主人公は、足の裏に地面へ染み込んだ他人の記憶を感じ取る特異な感覚を持っていた。商店街の横断歩道を踏んだとき、彼はそこに残るひとつの記憶――走る喜び、黄色い傘、手をつないだ子ども、やがて歩くことすら重くなる体――の断片を繰り返し受け取るようになる。
何日も同じ場所を踏み続けるうちに、その記憶はひとりの子どもから、さらに年を重ねたひとりの人間の人生へと輪郭を変えていく。横断歩道の前で必ず左右を確認する几帳面な動作、走れなくなっても失われない慎重さ、そしてやがて訪れる強い光と呼び声の断片から、主人公はその人物の終わりに近づいていることを知る。
終点の記憶を踏むことをためらった主人公だったが、横断歩道の端を避けるように渡り続ける日々の中で、その輪郭を弔うように見つめるようになる。そしてある朝、まだ誰にも踏まれていない終点の記憶を自分が引き受けるべきだと悟り、ついに白いラインを踏み越える。