あらすじ
『三度目の人生、私はもう「優しい姉」を廃業します。
奪いたいなら、毒入りの林檎でも、不実な婚約者でも、どうぞお好きなだけお持ち帰りくださいませ』
三度目の朝は
涙ではなく、
鏡の前の沈黙から始まった
首を落とされた記憶も
裏切りの声も
毒の甘い匂いも
もう驚くには値しない
ああ、そう
また同じ結末なのね、と
私はようやく理解した
優しい姉でいるかぎり
私は何度でも
誰かの欲望の皿に盛られるのだと
だから廃業する
今日で終わり
微笑んで譲る役も
庇って汚れる役も
許して抱きしめる役も
全部、ここに置いていく
欲しいならどうぞ
毒入りの林檎でも
熱に浮かされた偽物の愛でも
一度でも妹の指に触れた婚約者でも
お好きなだけ、お持ち帰りくださいませ
ただし
その苦さまで
その腐りまで
その責任まで
私が引き受けると思わないで
私はもう知っている
奪う人間が欲しがるものの多くは
磨かれた宝石ではなく
誰かが血を流して拭き上げた硝子だと
あなたはいつも
私の皿から取っていった
幸福のふりをした義務も
愛の名をした拘束も
聖女の冠に見せかけた
空っぽの籠も
けれど今度は違う
私は追わない
責めない
泣かない
ただ手を離す
支えていた指を
静かにほどく
その瞬間に崩れるなら
それは最初から
あなた一人では立てなかったということ
どうぞお好きなだけ
私の捨てたものを拾えばいい
でも忘れないで
泥棒がいちばん恐れるべきは
捕まることではない
盗んだものが
ただのガラクタだったと
朝の光の下で
知ってしまうことだ
三度目の人生
私はようやく
優しさの仮面を脱ぐ
その下にあるのは
冷酷ではない
怒りでもない
選び直す、という
たったひとつの自由
私はもう渡さない
私はもう譲らない
私はもう
あなたの物語の脇役ではない
だから笑って言うのだ
欲しいならどうぞ
毒入りの林檎でも
不実な婚約者でも
お好きなだけ、お持ち帰りくださいませ