あらすじ
三十四歳の港湾荷札監査官エミリア・クラウゼは、王都港で救恤物資と入港札の整合を十年守ってきた。だが三十八歳の夫ヴィクトルと、華やかな二十九歳の義妹セリーヌに検印席も夫も奪われたうえ、消えた救恤麦の責任まで押しつけられてしまう。離縁同然で送られた先は、北海の外れにある灯台港。そこでは灯台油が抜かれ、荷札は偽物に入れ替わり、冬を越えるはずの麦まで消えていた。潮見表、塩印、積荷縄の繊維、古い航路帳。記録をめくるほど、王都港と北海を結ぶ密輸の流れが見えてくる。無口だが毎朝いちばん新しい潮見表を届けてくれる三十七歳の海運伯ライナー・ノルトハーフェンと港を立て直しながら、エミリアは『本物の令嬢』を装う義妹の嘘と夫の裏帳簿を暴いていく。倉庫の影に追いやられてきた大人の女性が、自分の港と居場所を取り戻す逆転溺愛譚。