あらすじ
三十三歳の王国地籍監査官ヘレナ・ヴァイスナーは、境界石と地籍台帳の整合を守ることだけを武器に、王都の土地争いを何年も片づけてきた。だが三十七歳の婚約者アルベルト・ライナーと、二十七歳の『病弱で可憐な従妹』クララ・エルフェルトに、婚約も王国地図室も奪われたうえ、地籍改ざんの責任まで押しつけられてしまう。左遷先は、境界争いと二重課税で荒れた北辺領。そこでは村が地図から消え、草原が丸ごと隣領のものにされ、古い境界石まで動かされていた。亡き母の補助線入り旧地図、短く削られた測量鎖、昼に打ち直された境界杭。記録と実測を武器に不正を追うヘレナの前に現れたのは、無口だが毎朝温かい杜松茶を差し出す三十八歳の辺境侯ヴィクトル・ノルトハイム。北辺領を測り直しながら、ヘレナは『本物の令嬢』を装う従妹の嘘と、王都地籍局を食い物にする元婚約者の不正を暴いていく。誰かの影で線を引かされてきた大人の女性が、自分の地図と居場所を取り戻す逆転溺愛譚。