あらすじ
最新のスマートシティ・月見坂市で暮らす朔光太郎の平穏な日常は、自宅のポストに投函された宛名なき茶封筒によって唐突に破られた。中に入っていたのは、異様なカビと泥の匂いがこびりついた女児向けの手帳。幼いひらがなで綴られた無邪気な日記は、ページを進めるごとに筆圧の狂った血文字と、意味不明な呪術の図形へと変貌していた。
「呪いなど存在せぬ。すべてはモノが語る」
手帳を旧校舎の図書室へ持ち込んだ光太郎に対し、孤高の天才令嬢・如月瑠璃は純白の手袋をはめ、銀の懐中時計で思考を調律して鑑定を開始する。彼女の【物理的鑑定眼】と【情動の視座】が導き出した手帳のルーツは、60年前、不可解な死と共にダムの底へ沈められ、歴史から消された村『頭ノ滝』だった。
記録的な渇水によって泥の底から姿を現した廃村へ向かう二人。電波も届かず、頼みのデジタルガジェットが完全に無力化された情報の空白地帯で、光太郎は現場に残された「空間の違和感」に気づき始める。
60年間水底にあったはずの手帳が、なぜ今になって光太郎の元へ届いたのか。見えざる「現代の配達人」の足音が迫る中、瑠璃は少女の残した悲鳴から惨劇の論理を解き明かし、閉鎖空間に渦巻く呪いの概念を解体していく――。