あらすじ
王都一の香都セレノア。
この国では、婚約も盟約も戴冠も、すべては“香り”によって記される。
かつて小国の姫だったフィオラは、母を“禁香による王妃殺し”の罪で奪われ、一族も地位も失った。今は身分を隠し、下町の工房で香油や香菓子を作って生きている。
だが彼女には、誰にも知られてはならない力があった。
それは、香りに残る感情や記憶を読み取り、別の形に綴り直す禁じられた香術。
ある夜会で、彼女は“氷の公”と恐れられる若き公爵ルシアンと出会う。
王命で望まぬ婚姻を迫られている彼は、ある事情から婚約者を必要としていた。
一方フィオラもまた、母を陥れた黒幕に近づくには、公爵家に入るしかない。
利害の一致から始まった、偽りの婚約。
けれど、誰よりも冷たいはずの公爵は、香りに敏い彼女の前でだけ、不器用な優しさを見せていく。
宮廷を蝕む“黒香”の陰謀。
香りに封じられた過去の殺意。
そして、愛を知らぬ公爵の胸に、静かに灯る初恋。
これは、香りで運命を綴る姫が、
復讐のための婚約を、本物の愛に変えていく物語。