あらすじ

ある大学の地質学の教授の統計によると過去八十年間に天草から出た人間の総数は数万人に上り、将来起こるであろう未曽有の大災害、南海トラフが引き起こす地震と大津波で家土地を失くし、先祖のルーツ天草に戻る事を余儀なくされた人々、非難民は五十万人と推定される答申を私は頭の隅っこにいつも持っていた。 天草下島のど真ん中、限界集落に陥った宮地岳町で四年前妻を失くして独りぽっちで過ごしていた私は体調を崩して不眠症になり最悪の状態に陥っていた。三番目の姉が横須賀からやって来た。そして叔母も鹿児島から来て加わり、暫く三人で生活することで食生活が整い、私の自律神経は元通りに成りつつあった。私は横須賀の町を度々訪れた。そして町が存在する三浦半島、その横の伊豆半島を周った時、幾つもの山肌に張り付いた膨大な数のマイホーム群が田舎から流出した民族大移動を吸収したものであることの裏付けが取れた。熊本空港から羽田空港を数回往復する機内から眺める太平洋沿岸の黒い波間が不気味に光る。寝不足で飛行機に乗る時、巨大な大津波に飲み込まれる人類の夢を見た。 六月の梅雨が過ぎた頃、日本列島で何かが起こった。地震で各電波塔が倒れ、テレビ画面の砂嵐の合間に地震と大津波で破壊され何も無くなった砂丘のような太平洋沿岸の光景が映し出される。更にスマートホンで撮影された山のように盛り上がった黒い海が大蛇のように回転し沿岸の街を襲う恐怖で呼吸が止まる画面があった。 天草には四十五万人の避難民が戻って来た。我が宮地岳には関西関東の車のナンバーが溢れ沿道にも駐車され、三千人の避難民と現在の住民との三千五百人の町に膨れ上がった。住民は呆然と驚き、喧嘩、盗難,婦女子への軽犯罪など混乱は後を絶たず、食卓を囲むたき火に因る山火事の延焼が相次いだ。七倍の人口の食を支える為の原野の開発が進み始めた。原始生活の自然人に戻った感があった。 太平洋沿岸のコンビナートは停止し、日本のGDPは世界一〇位以下に下がってしまった。 邪馬台国と卑弥呼以来のニッポンに戻った状態に国民はわが身を引き締め、大和の本領を発揮するべき民族の使命を意識しなければならなかった。天草島民、宮地岳町民も八〇年前の記憶を取り戻し、自給自足の精神を取り戻す必要性に迫られた。 私の隣の空家の山腋家にも関西で難民となった親族の二家族が避難して来て、山脇の四人の子供が私の家の庭で子犬のパックと遊び、二人の若嫁と我が家の姉と叔母の四人がいつも一緒に慰め励まし合っている姿があった。

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カクヨム2026/04/20
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