あらすじ

山下さんの家の窓は、全部、古い新聞紙で目張りされている。 陽の光を拒絶するように、何層にも重ねられた紙は、長年の潮風で赤茶色に変色し、ところどころが湿気でふやけて、まるで病気の皮膚が剥がれかけているみたいに見える。 町の人たちはみんな「山下さんは偏屈な隠居老人で、誰も姿を見たことがない」と言っていた。 僕が生まれる前から、あの人はあの「紙の家」の中に閉じこもっているらしい。 でも、その家には「生きている証」が一つだけあった。 毎朝五時、まだ空が薄暗い紫色をしている頃。カチャリ、という、硬い硝子が触れ合う音が聞こえてくるんだ。 それは牛乳配達員の音だった。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
カクヨム
カクヨム2026/04/20
  • 現在の作品ぎゅうにゅう