あらすじ
セレノア王国皇太子のエリアスは、生まれながらに短命の呪いを受けた存在だった。
その命は、宮廷魔術師フェルマの施した継命の魔術によって、かろうじてつなぎ止められている。
たが、それは“治癒”ではない。
指先から静かに進む老化が、延命にすぎないことを物語っていた。
そんなエリアスの命を、かつて一度だけ“救った”少年がいた。ディオン。
幼い日の出会いの中で、彼はエリアスの歪んだ命に触れ、一時的とはいえ状態を正した。
その代償として、ディオンは自らの記憶を差し出す。
その影響で魔術は不安定となり、二人をつないでいた温室の空間も途切れ、やがて再び会うことはなくなった。
時は流れ――
セレノア王立騎士学院。
選ばれた者だけが入るその場所に、ディオンは一人の新入生として現れる。
しかし彼は、かつての少年とは違っていた。
太陽のように明るく、人懐っこかった面影はなく、
感情の薄い、静かな存在へと変わっていた。
一方でエリアスは、学院からの報告によってその名を知る。
詠唱を使わず、常識を外れた干渉を行う騎士。
その特異性に触れた瞬間、エリアスは確信する。
――あれは、あの時の少年だと。
再びつながる場所。
王宮の温室と紅茶店の奥につながる温室。
成長した二人は、そこで再会を果たす。
かつて自分を救った存在。たが、その代償として何かを失った存在。
騎士学院での生活の中で、ディオンはカイルやリネといった仲間と出会い、少しずつ人との関わりを取り戻していく。
だがその在り方はどこか歪であり、彼の存在は周囲に違和と興味を同時に与えていく。
そしてその異質さは、やがて王宮と学院、そしてフェルマの思惑を静かに交差させていくことになる。
エリアスは静かに決意する。
もう一度、失わせはしない。