あらすじ

主人公は七月の土曜、恋人の加奈子に別れを告げられる。彼女の部屋を出た後、自分の感情を言葉にしようとするが、どの言葉もしっくりこず、感情そのものの所在すら掴めないまま夜の街を歩く。帰宅後、理由もなく非常階段を上り屋上に出ると、衝動的に手すりを越えるが、落ちることはなかった。空中に踏み出したはずの足元には、踏む瞬間にだけ現れる不確かな足場があり、彼はその上を歩き始める。  やがて同じ空間にいる他人たちと出会う。彼らもまた、人生の転機となる夜にこの場所へ来るようになり、「どこかへ向かおうとした瞬間、足場が崩れる」という法則の中で夜を過ごしていた。向かう意志を持たなければ立っていられるが、目的地を定めた途端に不安定になるという奇妙な空間だった。  主人公は無意識に加奈子の住む方角へ向かおうとし、そのたびに足元を揺らす。会いに行きたいのか、それとも何かを終わらせたいのか、自分の動機すら言葉にできない。やがて彼は、自分が「彼女に会うため」ではなく「この宙吊りの状態を終わらせるため」に向かおうとしていたことに気づく。その瞬間、足場の揺れは止まる。  目的地を持つことをやめ、ただ一歩ずつ踏み出す「どこへも向かわない歩き方」を選んだとき、彼の体は次第に軽くなっていく。これまで加奈子との時間を常に「次の場所への通過点」として過ごしていた自分の在り方にも思い至る。  やがて夜が明け、彼は地上へと戻される。確かな地面に立ちながらも、踏む前から存在する足場と、踏むことで初めて生まれる足場の違いを実感する。言葉にならないままの感情を抱えつつ、それでも彼は一歩ずつ確かめるように歩き出すのだった。

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エブリスタ
エブリスタ2026/04/19
  • 現在の作品空は歩くものだった