あらすじ
『嘘の味を知る令嬢は、もう騙されない』
その言葉は、甘かった
けれど舌に触れた瞬間、
底のほうで腐っていた
やさしい声ほど、ぬるく濁り
愛している、と言うたびに
喉の奥で何かが崩れ落ちる
私はずっと、飲み込んできた
疑うことを、礼儀だと思っていたから
信じることを、役目だと思っていたから
でも知ってしまったのだ
嘘は、形ではなく味を持つことを
逃げ場のない、不快な現実として
苦い、では足りない
渋い、でも違う
それはもっと静かで、確実に
私を蝕む味だった
だからもう、飲まない
どんなに整えられた言葉でも
どんなに優しく差し出されても
舌が覚えている
本当のものは、濁らない
透明で
軽くて
ただそこにあるだけで、痛くない
それを知ったから
私はもう、騙されない
たとえそれが
ひとりで立つことになっても
空っぽの皿を前にしても
私は、自分で選ぶ
口にするものも
信じるものも
すべて、自分で決める
嘘の味を知る令嬢は
もう二度と
誰の言葉も、無条件には飲み込まない