あらすじ
『お前の人脈など、ただの茶飲み友達だろう』と言われて離縁した。翌日、全商会が夫との取引を停止した——私は今、隣国の王宮でお茶を淹れている
『冷めた茶と、春の湯気』
積もる雪の白さは
言葉よりも早く、冷たさを教える
湯を注いだばかりの茶が
音もなく、温度を失っていくように
わたくしの席もまた
静かに、意味を失っておりました
「茶飲み友達だろう」
その一言は軽く
けれど、長く残る渋みのように
胸の奥へ沈みました
ですから、何も申しませんでした
ただ、火を落とし
帳を閉じ
名も、縁も、すべて灰にして
わたくしは、出てまいりました
——翌朝
止まったのは、わたくしではなく
あの家のほうでございました
風は巡り
声は渡り
名もなき茶の席で交わされたものが
道を閉ざし、橋を外し
やがてすべてを、静かに断ちました
わたくしはただ
知っていただけでございます
誰が何を望み
誰が何を恐れ
誰がどこへ向かうのか
それを、温かな湯気の向こうで
そっと整えていただけ
——春が来ます
隣国の庭では
白い花がほころび
新しい茶が、やわらかく香ります
ここでは、誰も
茶を軽んじません
ひと口ごとに、言葉がほどけ
沈黙さえも、意味を持つからです
あの日、冷えた茶は
もう戻りません
けれど今、わたくしの前で立つ湯気は
消えるためではなく
満たすためにございます
「茶飲み友達」
ええ、それで結構
今ここにあるのは
互いを軽んじぬ者同士が
同じ温度で向き合うための
ただそれだけの席でございますから
そしてそれこそが
最も壊れにくい
つながりであると
ようやく、知りました