あらすじ

「サインはいただきました。あとは私が、この屋敷を出るだけです」
五年間の結婚生活。
イリス・フェルナが演じ続けたのは、婚約直前に出奔した異母姉・クローヴィアの「身代わり」という役だった。
辺境大公ヴァルクが愛していたのは、幼い頃に魔物の群れから自分を救ってくれた少女——それがクローヴィアだと信じていた彼は、顔の似た妹イリスを娶りながらも、一度たりとて彼女を「イリス」と呼ぶことはなかった。
冷淡な視線、クローヴィアと比べられる日々。
屋敷にはいまも姉の肖像画が飾られ、食卓には姉の好物が並んだ。
「君はどこまでいっても、クローヴィアにはなれない」
その言葉を最後に、イリスは静かに離縁状を書き、小さな箱をひとつ棚に残して、夜明け前に屋敷を去った。
翌朝、箱を開けたヴァルクが見つけたのは——
幼い頃、命の恩人の少女に預けたはずの護符と、
少女の手で綴られた、あまりにも小さな真実の手記だった。
――「雪の森で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私でした」
真実を知り、はじめて「イリス」という名を叫びながら彼女を追うヴァルク。
だが、すべてを置いて「自分」を取り戻したイリスは、もう二度と、誰かの身代わりとして微笑む妻には戻らない。
これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの——静かで鮮やかな再生の物語。

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アルファポリス
アルファポリス2026/04/19
  • 現在の作品『愛されぬ身代わり妻ですが、真実はもう、あの小箱の中に置いてきました』