あらすじ
アメリカ陸軍特殊部隊デルタフォース。その存在自体がアメリカの国家機密。世界最精鋭の組織。その元隊員が今、新潟県上越市でレジを打っている。
春野クリスティーナ、三十七歳。金髪に黒縁眼鏡、スーパーのパート勤務。夫の博司と3DKのアパートで暮らし、ぶりかまに感動し、納豆を愛し、日本語を学ぶ毎日。戦場で壊れかけた心を、この街と、この国の「普通」が少しずつ修復してくれた。
しかし平和は、突然終わりを告げる。
大切な友人が、悪党に追い詰められていた。夢のために積み上げてきたものを、じわじわと削られていく。声を殺して泣く友人の姿が、クリスの中で眠っていた何かに火をつけた。
警察では間に合わない。普通のやり方では届かない。
クリスは選ぶ。
「戦う。ただし、誰も殺さない。血も流さない。ただ——止めるだけ」
かつての仲間に連絡を取り、情報を集め、作戦を立てる。スーパーの主婦が、静かに牙を研ぐ。
悪党たちは知らなかった。ターゲットの友人が、世界最強の特殊部隊出身者だったことを。その女が、家族と平和と、ぶりかまを何よりも愛していたことを。そして——怒らせてはいけない人間を、怒らせてしまったことを。
日本海の荒波と、雪を被った北アルプス。美味しい魚と、温かいカフェ。この街の「普通」を守るために、元デルタフォース隊員は今日も動く。
派手な爆発も、華麗なカーチェイスもない。あるのは、愛する日常を取り戻すための、静かで完璧な戦いだ。
登場人物
春野クリスティーナ :元デルタフォースの隊員。現在は主婦。
春野博司 :クリスティーナの夫