あらすじ
王宮文書局で働くイリゼは、婚礼を控えた王宮の整理を命じられる。
来月、東翼には新しい女主人――公爵令嬢セラフィナ・アルヴェルが入る。祝うべき婚約。反対する理由など、どこにもない。
だが、先王妃付きの私蔵文書を収めた木箱の底で、イリゼは見覚えのある筆跡の束を見つける。
それは、王太子セヴラン・エルメディアが書き、誰にも送らなかった手紙だった。
幼い頃から、イリゼだけが知っていた小さな癖。
言えなかった言葉。燃やされるはずの紙。
婚礼の前に整理されるのは、部屋や記録だけではない。人が口にしなかった感情もまた、静かに選別されていく。
これは、選ばれなかった女の物語ではない。
選ばずに済む場所へ置かれたまま、それでも消えなかった思いと、誰にも届かなかった言葉の行方は。