あらすじ
「ご主人様、私は貴方の下僕です」
——なぜか、魔界から来たヘルハウンド獣人が、俺の家に住み着いている。
名前はマキナ。拾ったのは、二ヶ月前。腹を空かせて公園で行き倒れていたところを、残りのご飯を食べさせただけで、『ご主人様』と認定された。
身長は俺より頭一つ分、高い。胸も、腰も、尻尾も、耳も、全部が人間基準より一回り大きい。
魔界の生き物はスケールが違うらしい。そんな圧倒的な上位存在が、毎朝俺を玄関まで見送り、毎夕ご飯を作り、毎晩俺の布団に潜り込んで丸くなって眠る。
「お褒めにあずかり、光栄です。下僕として、至上の喜び……」
そんなマキナには、ひとつだけ、欠点があった。
独占欲が、異常に強い。
動画の広告で他の女性が三秒映っただけで、ハイライトが消える。
道ですれ違った胸の大きい女性に目が動いた瞬間、路地裏に引きずり込まれて「目を消毒させていただきます」と胸で窒息させられる。ヘルハウンドの腕力に、人間が抵抗する手段はない。
それでも、なんとか日々は回っていた。マキナのヤンデレスイッチを踏まないよう、会話の選択肢だけは慎重に選んでいれば。
——ただし、ある日、俺はミスをした。
「キスで、子供は、できないんだ」
「では、どうすれば、出来るのですか、ご主人様」
うっかり、答えを教えてしまった。
マキナの目から——ハイライトが、消えた。
「私、勘違いしておりました」
「ま、待て、マキナ」
「キスで足りるはずが、ないのですね」
ヘルハウンド獣人と暮らす上で、絶対に守らなければならないルールがある。
——会話の選択肢を、ミスってはいけない。
——ミスったら最後、襲われる。