あらすじ
旅行中、バイソンの群れに踏まれて死んだ。あっけない最期だった。
女神に「生きるのに何が必要?」と問われ、「今のままでいい」と答えたところ、
「じゃあ魔法は使い放題にしておくね」とだけ言われて、霊体のまま異世界に転移してしまった。
物は透過する。声は届かない。誰にも見えない。
完璧な「いないも同然」な存在として彷徨う中、立派なお屋敷の中で
生まれたばかりの赤ん坊がこちらに手を伸ばしてくる。
目が合った。確かに、見えている。
「よし、この子を守ろう」
この一言が、孤独に死んだ旅人の死後の全てになった。
辺境伯家の嫡男・レオネル。
転ぶ練習を見守り、勉強をヒントで助け、敵の矢を魔力で逸らし、
ミリア夫人の体調を夜ごと支え、政略の情報を暗号で伝え——
気づけばすっかり「守護精霊・イチ様」として家の慣習に組み込まれていた。
「ただの死んだ旅行者なんですが」と思いながら。
お坊っちゃんは育つ。笑い、悩み、戦い、選び、そして——
王家に婿入りし、国王の座に就く。
これは私の話ではない。
お坊っちゃんの成長記録である。
記録者は、死んでいる。
そして——末代まで、見守り続ける。