あらすじ
魔導暦一九三六年、冬。
「極東の大魔女」と呼ばれた老女アスラが静かに息を引き取った。旧神殿魔法の最後の正統継承者だった師は、最後の弟子クロサ・ユーリに、一通の親書を託す。
「西へ、持っていっておくれ」
宛先は、地球を半周したフランシア共和国の首都、セーナ・パルス。
魔法が神の手を離れ、エーテルを燃料とする魔導機関が蒸気機関に取って代わった世界。鉄道と汽船が大陸を縫い、人間が手ずから魔法を使う姿はもはや珍しい。そんな時代の空気の中を、十九歳の魔法学生は師の遺言を胸に、東から西へ、ひとり旅立つ。
青年将校の蜂起が鎮圧されたばかりの帝都。国際港コムベから大陸への連絡船。租借港ターリャンから乗り継ぐ特急「アゼヤ」号、多民族の街ハルビナ、国境駅マンツーリャ。粛清の影が落ちるルーゼア連邦をセベラ急行が西へ走り、アデルア海を越え、オルエンス急行が欧州を貫く——。
その旅路を、師はなぜ託したのか。親書には何が記されているのか。そして、届けた先で、彼は何を知ることになるのか。
静かな車窓と、移ろう風景と、行き交う人々。旅の果てに見えてくる、一人の大魔女の生涯と、揺らぎ始めた世界の輪郭。