あらすじ
中学一年の春、何気なく差し出された一枚のプリントから始まった恋は、言葉にすることもできないまま、静かに胸の奥で育ち続けていた。
相手は、穏やかな雰囲気を纏い、何気ない仕草さえも優しく見える少年――原くん。
彼の笑顔や声、ふとした癖の一つ一つに心を奪われながらも、想いを伝える勇気を持てないまま時間だけが過ぎていき、やがて迎えた中学二年の冬、その恋はあまりにもあっけなく終わりを迎える。
何も伝えられなかった後悔とともに、少女――八重香澄は過去を断ち切るように自分を変えた。長かった髪を切り、振る舞いも、好みも、周囲に見せる自分すらも作り替え、かつての自分を押し込めるようにして新しい環境へと進む。
進学先は、日本有数の進学校――智瑛坂高等学校。
周囲から一目置かれる存在となりながらも、どこか他人事のように日々を過ごしていた香澄だったが、そんな彼女の前に現れたのは、隣の席になった一人の男子生徒だった。
落ち着いた低い声、どこか影のある雰囲気、そして初対面のはずなのに拭えない微かな違和感。
「君、名前なんていうの?」
その何気ない一言から始まる、新しい関係。
過去を忘れた少女と、何かを知っているような少年。
交わるはずのなかった二人の距離は、隣の席という偶然によって少しずつ縮まっていく。
けれどその出会いは、本当に“初めて”なのか――。
これは、忘れてしまった初恋と、もう一度出会う物語。