あらすじ
「ほら早く、おれを……おれを殺してくれ……!」
おれの手に包丁を無理やり握らせた男は、鬼気迫る声でそう言った。体は小刻みに震えているのに、指先が白くなるほど力が込められている。口元には泡が溜まり、血走った目がこちらを射貫くように見据えていた。
ああ、なぜこんなことになってしまったんだ――。
すべては昨日の夜のことだった。
仕事帰り、いつもの道を歩いていたおれの前に、電柱の陰から男がぬらりと現れた。
「うおっ……」
おれは思わず短く声を漏らし、反射的に軽く会釈をしてそのまま横を通り過ぎようとした。
だが、男はなぜかずいと体を寄せ、おれの進路を塞いできた。