あらすじ
福岡転移歴五年、おそらく春。
異世界へと飛ばされた福岡県で、かつて戦場を恐怖に陥れた法皇国の白銀騎士・アルドが直面したのは、自衛隊の重火器でも生体適応者の異能でもなかった。
それは、日本社会が誇る難攻不落の要塞――「事務手続き」である。
「なぜ我が名を泥の彫刻(三文判)に刻まねばならぬのだ!」
「郵便番号なき聖域に、住民登録は認められません」
至宝のマントを返してもらうため、一本の三文判を手に福岡の街を奔走するアルド。彼を待ち受けるのは、死んだ魚の目をした最強の窓口担当・佐藤、むっちゃん万十を頬張りながら連帯保証人を押し付けられる早良署の三浦刑事、そして逆らう者を重力で床に埋めるパート主婦の遠山えりこ。
神の奇跡も通用しない、福岡の日常という名の最強結界。果たして聖騎士は、野芥のアパートに入居し、無事に「市民」として認められるのか?
これは、不条理な世界転移の裏側で、ハンコ一本に命を懸けた男の、滑稽で少しだけしぶとい奮闘記である。