あらすじ
冬の海風が石畳を鳴らす港町ルメラで、祖父の跡を継いだ青年ワニャマは、古書店《星階堂》を畳もうとしていた。売上は細く、商店街には再整備の話も出ている。このままでは店も建物も守れない。そう思っていた寒い朝、片付け中の古詩集から、蒼いコインと一枚の紙切れが落ちた。そこには「閉める前に、七晩だけ真夜中の喫茶店を開けてごらん。八日目の朝、それでも閉めたいなら閉めればいい」と記されていた。
半信半疑のまま祖父の珈琲道具を磨き、深夜に店を開けると、最初の客としてキャンディが現れる。彼女は焼き菓子づくりに打ち込みながら、幼いころ同じ筆跡の紙切れに救われた記憶を持っていた。ふたりは七晩だけ《蒼いコイン》という喫茶店を開き、その言葉の主と、コインの意味を探し始める。
夜ごと店には、進む道を迷う人、自分の努力を認めてもらえなかった人、町を出る決心がつかない人たちが訪れる。変装好きの情報屋、夜の配達人、記憶力のいい青年らの力も借りながら、ワニャマたちは、かつてこの店が本と飲み物と言葉で誰かの背中をそっと押してきた場所だったと知っていく。やがて紙切れの文面はワニャマの母が病床で残したものであり、祖父が必要な誰かへ届け続けていたことも明らかになる。
その一方で、キャンディには大都市の菓子店から誘いが届く。夢に進むか、この町に残るか。ワニャマもまた、店を閉めるか続けるかの決断を迫られる。大雪の最終夜、集まった人々の温かさと母の最後の手紙に背中を押され、ワニャマは受け取った優しさを次の誰かへ渡すため、この店を自分の意思で続けると決める。昼は古書店、夜は喫茶店。小さな灯りが、明日を少しだけ好きにしてくれる物語。