あらすじ
湘南の片隅にある、小さな定食屋。
腕は確かだが無口で不器用な調理師・波人は、今日も厨房で鍋を振るう。
彼の唯一の楽しみは、閉店後にイヤホンで音楽を聴きながら、ノートに“歌詞にならない想い”を書き殴ることだった。
数年前、何も言えずに終わった恋。
あの時「好きだ」と言えなかった後悔は、時間が経っても消えず、むしろ味を濃くしていく。
ある日、店にふらりと現れた一人の女性。
それは、あの時の彼女――由紀だった。
何事もなかったように笑う彼女。
過去をなかったことにしようとする自分。
でも、胸の奥では、ずっと鳴り止まない“未完成のサビ”が響いている。
「やっぱサビは、響かせてぇよな…」
料理も、恋も、タイミングがすべて。
火を入れる瞬間を間違えれば、すべてが台無しになる。
それでも――
もう一度だけ、火をつけてもいいですか。
これは、不器用な男が“伝えられなかった想い”を、もう一度だけ温め直す物語。