あらすじ
時は北宋──皇都・開封で知らぬ者なきオメガの名家、花家。
美貌で知られる三兄弟の末っ子、花采蓉は絶望していた。大のアルファ嫌いなのに、突然アルファとの縁談が決まったのだ。しかも相手は、自分をオメガではなく一人の男として認めてくれていた景廷毅。十一歳年上の幼馴染だった。
その彼の妻となり、屋敷の奥深くで生きていかなければならない──アルファの跡継ぎを産むことだけを期待されて。
裏切られ、誇りを砕かれて、怯えながら新床の褥に横たわる花嫁に、夫はある取引を持ち掛ける。
「契るのは、君が望むようになるまで待とう。ただ周囲を欺くために、私のすることを受け入れてくれ。──これからも、すべて」
目先の恐怖を回避したいあまり、花采蓉は取引を受け入れた。
抱かれたいと望むようになる日など、永遠に来ない。
しかし花采蓉には、嫁いだなら、絶対に子を産まなければならない理由があった。子を孕めず離縁され、非情なまでに傷つけられた次兄と、今は彼が当主を務める花家の名誉を守るために。そして、ベータの妻と幸せに暮らしていたにもかかわらず、強引にアルファに奪われた長兄と、その息子──次代の花家当主のために。
婚家では、意外にも家内の自由が与えられ、やさしい義父母との関係も悪くはない。景家は代々アルファの士大夫の名家で、義父も景廷毅も皇帝の覚えめでたい優秀な上級官吏である。
オメガの妻として行動を制限される以外、何不自由ない恵まれた新婚生活が始まるが、花采蓉は家族の間に横たわる不自然なひずみに気づく。
隠された幼子。
婚礼に参加しなかった新郎の異母兄。
そして新郎の亡き生母。
誰もが羨む文人の一族には、触れられない秘密があった。
さらには、二人の結婚にも──。
真の夫婦になれないまま、妻としての務めを全うしようと奮闘する花采蓉と、狂おしい欲望と執着、そして昏い過去を隠し妻を見守る景廷毅。
少しずつ心を通わせていく二人の行く末は──。