あらすじ
①あらすじ
雨の多い運河都市ルストリアの旧市街「パラソル通り」へ配属された新人調和官ジャクリンは、共同休憩所の洋式便器導入をめぐる揉め事を担当する。正しい案を急ぎすぎて反発を買った彼女は、教育係ヨセフや商店街の人々と現場で手を動かすうち、暮らしに必要なのは答えの押しつけではなく、言いにくい本音を言える場だと知っていく。
そんなある雨の木曜の夜、ジャクリンは旧夜間学校の校門前で、触れた途端に氷のように冷たい黒い傘を拾う。翌朝には傘本体だけが消え、石畳にはプルタブと冷たい痕跡だけが残っていた。十年前、この通りでは、石畳補修、雨よけパラソル再設置、共同休憩所の洋式便器導入を同時に進めようとして、若者たちの友情と善意が雨の夜に壊れていた。
黒い傘の正体、十年前に言えなかった謝罪、通りを守りながら更新する再整備案。笑える失敗と気まずい沈黙を重ねながら、ジャクリンは人と街の後悔をほどいていく。これは、失敗そのものは消えなくても、今日の差し出し方は選び直せると知るための物語。
②登場人物の紹介
ジャクリン――生活調和局に配属された新人調和官。結果を急ぎがちだが、現場を知るほどに、人の声を待つ強さを覚えていく。
ヨセフ――ジャクリンの教育係。住民と一緒に手を動かすのがうまい先輩調和官。十年前の失敗を今も抱えている。
エメケ――都市整備課の職員。工程と期限を守る実務派で、通りの再整備を進める立場からジャクリンとぶつかる。
リオネロ――旧市街の写真館を営む青年。言葉にならない感情ほど写真にしたがる。
セアラ――十年前の地域活動サークル「音の音」の中心にいた女性。黒い傘を持つ人物の正体。