あらすじ

王宮の薬草園は、いつも整いすぎていた。 土は黙り、葉は揃い、根は深く息を潜める。 その中でただ一人、耳を澄ませていた女がいた。 風でもない、祈りでもない、土の下でほどける、小さな声を。けれどその声は数に数えられず、成果にも記録にも残らなかった。 静かな紙切れ一枚で、彼女は外へ出る。 春の終わり、花びらが一つだけ遅れて落ちる頃。向かったのは、名もかすれた辺境の村。 傾いた屋根と、乾いた井戸と、触れれば崩れそうな庭。 鍬を入れると、土がわずかに息を吐いた。 水を落とせば、根がほろりとほどける。 「遅いですよ」と、かすかな声がする。 やがて匂いに誘われて、丸い影がひとつ、草の陰から転がり出る。触れれば消えそうな、あたたかい気配。 整えない庭。 急がせない成長。 言葉にならない願いだけが、ゆっくりと満ちていく。 誰かが訪れ、薬を求める。 やわらかな苦みは、喉の奥で静かにほどける。 そのあとに残るのは、名前のないぬくもり。 ——ここは、声を持たないものたちが、 ようやく声になる場所。 廃屋の庭で、小さな季節が今日も芽吹く。

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カクヨム
カクヨム2026/04/16
  • 現在の作品「植物の感情読み」スキルで解雇された薬草師、じゃあ辺境の廃屋で気ままに薬草園を作ります。