あらすじ
王宮の薬草園は、いつも整いすぎていた。
土は黙り、葉は揃い、根は深く息を潜める。
その中でただ一人、耳を澄ませていた女がいた。
風でもない、祈りでもない、土の下でほどける、小さな声を。けれどその声は数に数えられず、成果にも記録にも残らなかった。
静かな紙切れ一枚で、彼女は外へ出る。
春の終わり、花びらが一つだけ遅れて落ちる頃。向かったのは、名もかすれた辺境の村。
傾いた屋根と、乾いた井戸と、触れれば崩れそうな庭。
鍬を入れると、土がわずかに息を吐いた。
水を落とせば、根がほろりとほどける。
「遅いですよ」と、かすかな声がする。
やがて匂いに誘われて、丸い影がひとつ、草の陰から転がり出る。触れれば消えそうな、あたたかい気配。
整えない庭。
急がせない成長。
言葉にならない願いだけが、ゆっくりと満ちていく。
誰かが訪れ、薬を求める。
やわらかな苦みは、喉の奥で静かにほどける。
そのあとに残るのは、名前のないぬくもり。
——ここは、声を持たないものたちが、
ようやく声になる場所。
廃屋の庭で、小さな季節が今日も芽吹く。