あらすじ
『新居を親に捧げた婚約者へ。
私もマンション売ったから、あなたの帰る場所ないですよ?』
「家族だろ?」とあなたは言った
その言葉は
やさしさの形をして
私の境界を踏み越えてきた
相談もなく
確認もなく
ただ当然のように
二人の未来を
あなたは差し出した
——自分ではない誰かのために
「親のためなんだ」
その声は誇らしく
少しだけ子どもで
そして決定的に
私を含んでいなかった
あの夜
静かな部屋で
私は知った
怒りより先に来る感情が
あるということを
それは
冷えた水のように
音もなく広がって
「ああ、この人とは
もう同じ場所に立てない」
と
ただ、それだけを教えた
だから私は
同じことをした
あなたがしたように
相談せず
確認せず
ただ、決めた
私の家を売った
誰にも奪われないものを
自分の手で手放した
それは
復讐でも
怒りでもない
ただの整頓だった
いらない未来を
きれいに片付けるための
「俺たちの家はどうなるんだ?」
その問いは
少し遅すぎた
“俺たち”は
どこにも存在しなかったから
あなたは
二人のものを売った
私は
自分のものを売った
たったそれだけの違いが
こんなにも
世界の重さを変える
鍵の開かないドアの前で
立ち尽くすあなたを想像する
その光景は
不思議と痛みを伴わない
ただ静かに
終わったのだと
理解するだけ
帰る場所は
最初から決まっていたでしょう?
あなたが守りたかった
その家に
私はもう
どこにもいない
そして今
窓を開けると
風が入る
軽い
驚くほど
何も失っていないと
気づく
むしろ
やっと
自分の場所に
立てた気がする
帰る場所は
誰かに与えられるものじゃない
自分で選んで
自分で守るもの
だから私は
もう迷わない
ここが
私の場所だから