あらすじ
俺の彼女は、人前では完璧な女だった。
優しくて、面倒見がよくて、テニスサークルの誰からも好かれていた。
——けれども、二人きりになると、殴る。蹴る。
「お前はクズだ」
「私がいなければ、何もできないくせに」
皿を投げつけられ、暴言を吐かれる。
おかしいのはわかっていた。でも、俺は彼女から、離れられなかった。
そんな事実を何を知らない後輩のバジリスク獣人・メアリは、いつも俺の一歩後ろを歩いていた。
控えめで、口数が少なくて、テニスを教えている時だけ小さく笑う。その笑顔を、俺以外の誰にも見せない子。新歓の夜に助けた時から、ずっと懐いてくれていた。
そしてある日、メアリに、俺が部室で殴られている現場を見られた。
メアリは俺の傷に絆創膏を貼りながら言った。「警察に行きましょう」と。
俺は断った。「あいつにも事情がある」「俺が悪い」と。
いつもの言い訳を並べた。
メアリは何も言わず、俺を抱きしめた。
背伸びして、頭を撫でてくれた。
「わたしなら、せんぱいに、こんな思い、させないのに」
温かかった。彼女に殴られた頬の上に、メアリの小さな手の温もりが重なった。泣きそうになった。
「わたしじゃ、ダメですか?」
——靡きそうになった。本気で。でも「彼女を裏切れない」と、またあの部屋に帰った。帰ったら、また殴られた。
メアリの右目は、いつも長い髪で隠されている。
その下に何があるのか、俺は知らなかった。
知った時には——もう、意識が溶けていた。
「大丈夫ですよ、せんぱい」
「せんぱいは、わたしが守ってあげますから💞」