あらすじ
★以下はコンテスト向けの梗概となります(ネタバレ有)。
ネタバレを避けたい方は十行くらいで離脱してください。
【あらすじ】
「ジョーティシュ」と呼ばれる古代の占星術を用い、依頼人の運命を読み解きながら旅を続ける占星術師アキュバル。彼には二匹の相棒がいた。古き神話に語られる竜、ラーフとケートゥである。彼らは数千年の歴史を有する広大なヴァーラダ国の辺境都市エル=バシールに滞在していた。
ある日、税務監察官マジッドと名乗る男から、「娘」の運命を占ってほしいという依頼を受ける。しかしアキュバルは託された出生図からマジッドの嘘と、「娘」が背負う数奇な宿命、そして類稀なる舞踊の才能を看破する。出生図に示された「踊り手」という手がかりを追って劇場「七つの門」へ向かったアキュバルは、そこで伝統舞踊「竜舞」を踊る一人の少女と出会う。ハザル族の踊り子、セターラ。彼女こそ、マジッドが占おうとした「娘」だった。アキュバルは客席の暗がりで、彼女の舞を凝視するマジッドの姿を発見し、そのつながりを確信する。
セターラを追って、アキュバルはハザル族が暮らす聖地ムルギルを訪れる。彼らは十年前、侵略国家ファールズ軍との戦いに敗れ、故郷の高地を追われた難民であり、セターラは戦死した族長の娘として、一族の生活と希望を一身に背負っていた。 そのムルギルで、アキュバルは一族の生命線である井戸を謎の労働者たちが「公共調査」の名目で強引に封鎖する現場に立ち会う。アキュバルたちはハザル族にしか伝わらない特殊な結び方「シャムズァ」を手がかりに、彼らに指示している人物がハザル族出身の役人であることを突きとめる。
アキュバルはエル=バシールに戻ると、役人たちに格安で鑑定を持ちかけ、内情を探るという奇策に出る。そして遂に、マジッドの経歴―彼が十年前の戦いで死んだはずのハザル族の舞踊家、ザフィールであるという真実にたどり着く。彼はかつてセターラの母クリセンテを愛し、竜舞の継承を競った男だった。ザフィールは、ハザル族が聖地の地下に秘匿してきた太古の「化石水」の存在を知っていた。そして、そのありかが「竜舞」の所作に暗号として隠されていることにも気づいていた。ザフィールは竜舞の秘密を記したクリセンテの手紙を強奪し、暗殺者を放ってアキュバルたちの口を封じようとしながら、化石水をファールズに売り渡し、絶大な権力を得ようと画策する。
ザフィールは読解した暗号を頼りに、化石水の眠る洞窟の掘削を開始する。しかし暗号を記した手紙は二つに分けられており、ザフィールは化石水へとたどり着けない。アキュバルとセターラは、嵐の夜、崩落の危険がある洞窟でザフィールと対峙する。圧倒的な武術の才を持つザフィールの力の前にセターラは窮地に陥るが、「怒りにとらわれるな」というアキュバルの言葉に導かれ、母の教えの真髄―憎しみではなく、すべてを受け入れ流す「水」の如き境地―に達し、覚醒する。慈悲の心で彼と向き合うセターラの姿に、ザフィールはついに失われた己の心の断片を取り戻す。彼は戦場での地獄の記憶と、裏切りに至った苦悩を告白する。その瞬間、洞窟が崩落を始める。ザフィールは頭上に土砂が崩落するまさにその刹那、セターラを突き飛ばしてその身を救い、瓦礫の底に消えていった。
すべてが終わり、セターラは母が自身の衣装に縫い込んでいた竜舞の最後の暗号を発見。母から託された竜舞の秘密を読み解いた後、一族の未来を切り開くため、より広い世界を知ることを決意する。アキュバルもまた、彼女と共に旅立つことを決める。孤児として生まれ、自身の出生時刻を知らないために、誰の運命も読める彼が唯一、自らの運命だけは読むことができない。彼は、失われた過去への答えを求め、セターラと共に未知なる旅へと歩み出すのだった。
【登場人物】
アキュバル
流浪の占星術師。孤児として育ち、生き別れた姉を探す旅を続けている。ジョーティシュ(占星術)の技術に長け、冷静沈着だが内に情熱を秘める。
セターラ
ハザル族の踊り子。族長の娘として生まれ、母から「竜舞」を受け継いだ。明るく勇敢な性格で、部族の希望を一身に背負う十九歳の少女。
マジッド
謎の税務監察官。物語の重要な鍵を握る人物。
パーシャ
ハザル族の長老で染織師。かつては優れた占星術師だったが、一族を救えなかった過去を悔いている。セターラを我が子のように愛する。
ラーフ・ケートゥ
アキュバルにしか見えない神話上の二匹の竜。奔放で皮肉屋の黒竜ラーフと、思慮深く穏やかな白竜ケートゥ。彼の助言者であり、物語に独自の魅力を与える相棒。
【世界観・設定】
ジョーティシュ(インド占星術)
物語の核となる古代の叡智。ホロスコープ(天体図)を読むことで、運命の傾向を分析し、謎を解き明かす「光の科学」。単なるファンタジーの魔法ではなく、物語を動かす精緻なロジックとして機能する。
ハザル族
大国に追われた少数民族。文字に頼らず、民族舞踊「竜舞」の所作や、織物の結び目「シャムズァ」といった独自の伝承方法で、文化や部族の秘密を代々守り続けてきた人々。
※本作に登場するJyotish(インド占星術)の専門知識や概念は、すべて実在するものです。
※「Tales」様にも掲載しています。