あらすじ

​「あちゃ、完全に閉じ込められちゃったね。蒼太、ごめん。私のせいだ」 ​鉄の扉が閉まった瞬間、世界から音が消えた。 放課後の体育館倉庫。窓のない密室。 外で降り始めた激しい雨の音は、トタン屋根を叩く鈍い打音へと姿を変え、僕たちを外界から完全に隔離する。 ​そこにいたのは、クラスのムードメーカーである朱音。 いつもなら男子に混じって大きな声で笑っている彼女が、薄暗い闇の中では、驚くほど静かで、しっとりとした「女の子」の顔をしていた。 ​「蒼太。……少しだけ、寄りかかっていい? ちょっとだけ、寒くなっちゃった」 ​積み上げられた古い体操マット。跳び箱の陰。 至近距離で触れ合う肩から、彼女の柔らかな体温が、確かな鼓動を伴って伝わってくる。 埃っぽい空気の中で、彼女の髪から香るシトラスの匂いだけが、僕の理性を静かにかき乱していく。 ​「私、雨って嫌いじゃないよ。だって、こうして蒼太を独り占めできるから」 ​絡み合う指先。重なり合う吐息。 雨が上がるまで、あるいは誰かが扉を開けるまで。 僕たちは、終わりのない放課後という名の深い淵へと、ゆっくりと沈み込んでいく。

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カクヨム
カクヨム2026/04/15
  • 現在の作品放課後の雨、体育館倉庫。――跳び箱の陰で、君の体温に触れたなら