あらすじ

北向き六畳一間。午前二時四十六分。空室のはずの隣室から、湿った咀嚼音が聞こえてくる。 録音しても、入らない。波形は平坦だ。音は空気を振動させていなかった。 音過敏。ストレス反応。心因性幻聴——知っている単語でバリケードを築く。しかし名前をつけた瞬間に、音は一段階大きくなった。 名指しは、召喚だ。 管理会社は言った。三〇二号室はずっと空室です。それより、去年の十二月にも同じお電話を—— 三ヶ月だと思っていた時間が、一年以上だったとしたら。食われていたのは、記憶の中身だけだったとしたら。 壁の向こうは、隣人の部屋ではなかった。 そして今、これを読んでいる君の耳の中で——何かが、鳴り始めている。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
カクヨム
カクヨム2026/04/14
  • 現在の作品#となりのクチャラー